特許権侵害紛争案件に関する解釈(二
(情報ソース:中国法院網)
2016年3月22日、中国最高人民法院は、「最高人民法院による特許権侵害紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(以下、本解釈という)を公表した。
特許権侵害紛争案件を正しく審理するために、「中華人民共和国特許法」、「中華人民共和国民事訴訟法」等の関連法律に基づき、審判実務を踏まえて、本解釈を制定した。本解釈は合計31条で、主にクレームの解釈、間接侵害、標準実施による抗弁、合法的出所の抗弁、差止請求、損害賠償額の算定、特許の無効審判が侵害訴訟にもたらす影響など、実務上重要且つ困難と思われる問題に関するものである。
以下、本解釈の日本語仮訳を掲載する。
第1条 特許請求の範囲に二以上の請求項がある場合、権利者は訴状において、提訴の根拠となる、被疑侵害者が侵害する特許権の請求項を明記しなければならい。訴状に記載がない、又は記載が不明の場合、人民法院は権利者に明確にするよう要求しなければならない。釈明を経ても、権利者が明確にしない場合、人民法院は提訴を却下することを裁定できる。
第2条 権利者が特許侵害訴訟で主張した請求項が、特許復審委員会により無効審決とされた場合、特許権侵害紛争案件を審理する人民法院は権利者の当該無効にされた請求項に基づく提訴を却下することができる。 上記の請求項を無効とする無効審決が、効力を有する行政判決により取消されたことを証明できる証拠がある場合、権利者は別途提訴することができる。 特許権者が別途提訴するとき、訴訟の時効期間は本条第2項にいう行政判決書の送達日から起算する。
第3条 特許法第26条第3項、第4項に明らかに違反し、明細書を請求項の解釈に用いることができず、かつ本解釈の第4条の規定に該当しない状況で、特許権の無効審判が請求された場合、特許権侵害紛争案件を審理する人民法院は通常訴訟の中止を裁定しなければならない。合理的な期限内に特許権の無効審判が請求されない場合、人民法院は請求項の記載に基づいて特許権の保護範囲を確定することができる。
第4条 特許請求の範囲、明細書及び図面における文法、文字、句読点、図形、符号等の誤りについて、当業者が、特許請求の範囲、明細書及び図面により、明確に唯一の理解が得られる場合、人民法院は当該唯一の理解に基づいて認定しなければならない。
第5条 人民法院が特許権の保護範囲を確定するとき、独立請求項の前置部分、特徴部分及び従属請求項の引用部分、限定部分に記載された技術的特徴は、いずれも限定作用がある。
第6条 人民法院は、係争特許と分割出願の関係があるその他の特許及びその審査包袋、有効な特許権付与権利帰属確認の裁判文書を用いて、係争特許の請求項を解釈することができる。 特許の審査包袋とは、特許審査、拒絶査定不服審判(復審)、無効審判における特許出願人又は特許権者が提出した書面資料、国務院特許行政部門及び復審委員会が作成した審査意見通知書、面談記録、口頭審理記録、有効な拒絶査定不服審判の審決書及び無効審判の審決書等を含む。
第7条 被疑侵害技術案が閉鎖式の組成物請求項の全ての技術的特徴を基礎として、その他技術的特徴を追加する場合、人民法院は被疑侵害技術案が特許権の保護範囲に含まれないものと認定しなければならない。但し、当該追加技術的特徴が不可避の通常数量の不純物に当たる場合を除く。 前項の閉鎖式の組成物請求項は、一般的に漢方薬の組成物請求項を含まない。
第8条 機能的特徴とは、構造、成分、工程、条件またはこれらの関係等について、それが発明創造において発揮する機能または効果により限定する技術的特徴をいう。但し、当業者が請求項から直接且つ明確に上記機能または効果を実現する具体的な実施形態を確定できる場合は除く。 被疑侵害技術案の対応する技術的特徴が、明細書及び図面に記載されている前項にいう機能または効果を実現するために不可欠な技術的特徴と比べて、基本的に同一の手段により、同一の機能を実現し、同一の効果をもたらし、且つ当業者が被疑侵害行為が発生した時に創造的労働を経ずに想到できるものである場合は、人民法院は、当該対応する技術的特徴が機能的特徴と同一または均等であるものと認定しなければならない。
第9条 被疑侵害技術案が、請求項における使用環境特徴で限定した使用環境に適用できない場合、人民法院は被疑侵害技案が特許権の保護範囲に含まれないものと認定しなければならない。
第10条 請求項において製造方法により製品の技術的特徴が限定されているときは、被疑侵害品の製造方法がそれと同一でなく且つ均等でもない場合は、人民法院は被疑侵害技術案が特許権の保護範囲に含まれないものと認定しなければならない。
第11条 方法クレームに技術工程の先後順序を明確に記載していないが、当業者が請求項、明細書及び図面により、直接かつ明確に特定の順序で当該技術工程を実施しなければならないと認めるときは、人民法院は当該工程の順序が特許権の保護範囲に対して限定作用を有するものと認定しなければならない。
第12条 請求項が「少なくとも」、「を超えない」などの用語で数値特徴を限定し、かつ当業者が特許請求の範囲、明細書及び図面から、特許の技術案は当該用語が技術的特徴に対する限定作用を特に強調していると認める場合、権利者がその範囲外の数値特徴を均等な範囲であると主張しても、人民法院はこれを支持しない。
第13条 特許出願人、特許権者が特許権付与・確認の過程で行った特許請求の範囲、明細書及び図面への減縮的な補正又は意見が明確に否定されることを権利者が証明する場合、人民法院は当該補正又は意見が技術案を放棄することにならないと認定しなければならない。
第14条 人民法院は一般消費者の意匠に対して有する知識レベル及び認知能力を認定するとき、一般的に被疑侵害行為の発生時に、登録意匠の所属する同一又は近似製品の「設計余地」を考慮しなければならない。設計余地が比較的大きい場合、人民法院は一般消費者が通常異なる設計の間の比較的小さな差異について容易に注意に至らないと認定することができる。設計余地が比較的小さい場合、人民法院は一般消費者が通常異なる設計の間の比較的小さな差異についてより容易に注意に至ると認定することができる。
第15条 組物の意匠について、被疑侵害意匠がその一組の意匠と同一又は類似する場合、人民法院は被疑侵害意匠が意匠権の保護範囲に属すると認定しなければならない。
第16条 組立関係が唯一である製品の意匠権について、被疑侵害意匠がその組立状態での意匠と同一又は類似する場合、人民法院は被疑侵害意匠が意匠権の保護範囲に含まれると認定しなければならない。 各部品間に組立関係がない又は組立関係が唯一でない製品の意匠について、被疑侵害意匠がその全ての単独部品の意匠と同一又は類似する場合、人民法院は被疑侵害意匠が意匠権の保護範囲に含まれるものと認定しなければならない。被疑侵害意匠が一部の単独部品の意匠を欠くか、又はそれと同一でなく類似でもない場合、人民法院は被疑侵害意匠が意匠権の保護範囲に含まれないものと認定しなければならない。
第17条 状態が変化する製品の意匠について、被疑侵害意匠が変化状態図に示す各種の使用状態での意匠とそれぞれ同一又は類似の場合、人民法院は被疑侵害意匠が意匠権の保護範囲に含まれるものと認定しなければならない。被疑侵害意匠がその一種の使用状態での意匠を欠くか、又は同一でなく類似でもない場合、人民法院は被疑侵害意匠が意匠権の保護範囲に含まれないものと認定しなければならない。
第18条 権利者が特許法第13条の規定により、特許出願の公開日から登録公告日までの期間に当該発明を実施した機関又は個人に適当な費用の支払いを求める場合、人民法院は関連する特許実施許諾料を参酌して合理的に確定することができる。 特許出願公開時に出願人が保護請求する範囲が、特許の登録公告時の特許権の保護範囲と一致せず、被疑技術案が上記二種類の範囲にある場合、人民法院は被告が前項の期間内に当該発明を実施したと認定しなければならない。被疑侵害技術案がその中の一種類の範囲にだけある場合、人民法院は被告が前項の期間内に当該発明を実施していないと認定しなければならない。 特許が登録公告された後、特許権者の許可を得ず、生産経営の目的で、本条第1項にいう期間内に第三者が製造、販売、輸入した製品を使用、販売の許諾、販売し、かつ、当該第三者が特許法第13条に規定する適当な費用を支払った又は書面で支払いを承諾した場合、上記の使用、販売の許諾、販売行為が特許権を侵害するという権利者の主張を、人民法院は支持しない。
第19条 製品売買契約が法により成立した場合、人民法院は特許法第11条に規定する販売に該当すると認定しなければならない。
第20条 特許の方法により直接得られた製品をさらに加工、処理して得た後続製品について、再度加工、処理する場合、人民法院は特許法第11条に規定する「当該特許の方法により直接得られた製品を使用する」に該当しないと認定しなければならない。
第21条 関連製品が専ら特許を実施するための材料、設備、部品、中間物などであることを知りながら、特許権者の許可なく、生産経営を目的として当該製品を他人に提供して特許権を侵害する行為を実施させたとき、当該提供者の行為が権利侵害責任法第9条に規定する他人の権利侵害を幇助する行為に属すると権利者が主張した場合は、人民法院はこれを支持しなければならない。 関連製品、方法に特許権が付与されていることを知りながら、特許権者の許可なく、生産経営を目的として積極的に他人を誘導して特許権を侵害する行為を実施させたとき、当該誘導者の行為が権利侵害責任法第9条に規定する他人の権利侵害を教唆する行為に属すると権利者が主張した場合は、人民法院はこれを支持しなければならない。
第22条 被疑侵害者が主張する従来技術の抗弁又は設計について、人民法院は特許出願日のときに施行されている特許法により従来技術又は従来設計を定義しなければならない。
第23条 被疑侵害技術案又は意匠が先行する係争特許権の保護範囲に属し、被疑侵害者が、その技術案又は意匠が特許権を与えられたことをもって係争特許権を侵害していないと抗弁する場合、人民法院は支持しない。
第24条 国家、業界または地方の推奨標準がそれにかかる必要的特許の情報を明示している場合において、被疑侵害者が当該標準の実施は特許権者の許可を要しないことを理由に、当該特許権の非侵害の抗弁を行ったときは、人民法院は通常これを支持しない。 国家、業界または地方の推奨標準がそれにかかる必要的特許の情報を明示している場合において、特許権者及び被疑侵害者が当該特許の実施許諾条件について協議を行う際に、特許権者が故意に標準の制定において承諾した公平、合理的、かつ非差別的な許諾義務に違反したため特許実施許諾契約に至らず、且つ被疑侵害者が協議において明らかな過失がないときは、権利者の標準実施行為の差止めを請求する主張に対し、人民法院は通常これを支持しない。 本条第2項の実施許諾条件は、特許権者と被疑侵害者の協議により確定しなければならない。十分な協議を経ても合意に至らない場合、人民法院に確定を請求することができる。人民法院は上記の実施許諾条件を確定するとき、公正、合理的、かつ非差別の原則に基づき特許のイノベーションレベル及びその標準における作用、標準の属する技術分野、標準の性質、標準実施の範囲及び関連する許諾条件等の要素を総合的に考慮しなければならない。 法律、行政法規が標準の実施における特許について別途の定めがあるときは、その定めに従う。
第25条 特許権者の許可なく製造、販売された特許権侵害製品であることを知らずに、生産経営の目的としてこれを使用、販売の申出または販売し、且つ証拠をもって当該製品の合法的出所を証明した場合は、権利者の上記使用、販売の申出、販売の行為の差止めを請求する主張に対し、人民法院はこれを支持しなければならない。但し、被疑侵害製品の使用者が証拠をもって当該製品の合理的対価を支払ったことを証明した場合を除く。 本条第1項にいう「知らずに」とは、実際に知らず、且つ知っているべきでない場合をいう。 本条第1項にいう「合法的出所」とは、合法的な販売ルートを通じて通常の売買契約等の正常な商業的方法により製品を取得することをいう。合法的出所については、使用者、販売の申出を行う者または販売者が取引慣例に合致する関連する証拠を提供しなければならない。
第26条 被告が特許権の侵害を構成し、権利者が侵害行為の差止を請求した場合、人民法院はこれを支持しなければならない。しかし国家の利益、公共の利益との比較考量により、人民法院は、被告の被疑行為の差止を命じずに、相応の合理的な費用の支払いを命じることができる。
第27条 権利者が侵害により受けた実際の損害の確定が難しい場合、人民法院は特許法第65条第1項の規定により、侵害者が侵害により得た利益を挙証することを権利者に要求しなければならい。侵害者が得た利益の初歩的証拠を権利者がすでに提供しており、かつ特許侵害行為に関連する帳簿、資料が主に侵害者により把握されている状況において、人民法院は侵害者に当該帳簿、資料の提供を命じることができる。侵害者が正当な理由なく提供を拒む又は虚偽の帳簿、資料を提供する場合、人民法院は権利者の主張及び提供した証拠に基づいて侵害者の侵害により得た利益を認定することができる。
第28条 権利者と侵害者が法により特許侵害の損害賠償額又は計算方法を約定し、特許侵害訴訟で当該約定により損害賠償額を確定することを主張する場合、人民法院はこれを支持しなければならない。
第29条 特許権の無効審決がされた後、当事者が当該審決に基づいて法により再審を申請し、特許無効審決前に人民法院が下したがまだ執行されていない特許侵害の判決、和解調書の取り消しを請求する場合、人民法院は再審の審査を中止し、また原判決、和解調書の執行を中止することを裁定できる。 特許権者が人民法院に対して十分で有効な担保を提供し、前項の判決、和解調書の執行の継続を請求する場合、人民法院は執行を継続しなければならない。侵害者が人民法院に対して十分で有効な逆担保を提供し、執行の中止を請求する場合、人民法院は許可しなければならない。人民法院の発効した判決が特許権無効審決を取り消さない場合、特許権者は執行を継続することによる相手側の損失を賠償しなければならない。無効審決が人民法院の発効した判決により取り消され、特許権が有効である場合、人民法院は前項の判決、和解調書により上記逆担保財産を直接執行することができる。
第30条 法定期限内に無効審決に対して人民法院へ提訴しない又は提訴後有効な判決が当該審決を取り消さず、当事者が当該審決に基づいて法により再審を請求し、無効審決前に人民法院が下したがまだ執行されていない特許侵害の判決、和解調書の取り消しを請求する場合、人民法院は再審しなければならない。当事者が当該審決に基づいて法により、無効審決前に人民法院が下したがまだ執行されていない特許侵害の判決、調停書の終結を請求する場合、人民法院は執行の終結を裁定しなければならない。
第31条 本解釈は2016年4月1日から施行される。最高人民法院が以前に公布した関連する司法解釈が本解釈と一致しない場合、本解釈に準ずる。